副社長講演会も、打ち切りの瞬間がやってくる。

「それでは、皆様…」

 横からにゅっと伸びた手が、副社長の手からマイクを奪い、進行顔負けの含みのある声を会場に響かせた。

 こんなことが出来る男は、この中にはたった1人しかいない。

「若き2人の前途と、彼の経営する鋼南電気の発展を願って…乾杯!」

 ソウマだ。

 あたかも、最初からこんな余興を用意していたかのような絶妙さで、副社長の仕事をかっさらってしまったのである。

 冷めた糸がちぎれたように、招待客に笑顔が戻った。

 まだしゃべり足りなくて、突然のマイク泥棒に憮然とした表情をしているシュウは、そんな自分の態度が、更に周囲の人間の笑顔を誘っていることに気づいていない。

 こんな、絶妙な間を作り出せる男は、他にはいなかった。

 フン。

 しかし、それを素直にカイトは賞賛したりしなかった。

 誰にでもいい顔をする、ソウマの態度を悪く思おうとしたが出来なかったのは、ただ単に男としての嫉妬が、前面に立っているということを自分で気づいてしまったからだ。

 きっと。

 メイも。

 ちらり。

 乾杯とやらで、皆がグラスに口をつけている中、カイトは隣の席をみやった。

 はにかむように、緊張のリボンが解けたように、メイは微笑んでいた。

 瞳は、マイクの側の2人の男たちに注がれていて。

 その表情は、本人の自覚はないかもしれないが、すごく可憐で―― カイトを、更なる嫉妬に駆り立てたのだ。