ほほぉ。

 ソウマは、祝辞を述べている男を見た。

 カイトが指名したという、開発室のチーフらしいが、なかなかよい祝辞だ。

 あのカイトの下にいるのだから、もしかしたら睨みを効かされていて、当たり障りのないスピーチになるのではないかと思っていたが、どうしてどうして。

 いいカンをしている。

 カイトが、いかにメイに惚れているかを知っているのか、それとも、元々そういうことを言う男なのか―― どちらにせよ、いまカイトを咳き込ませたことには間違いない。

 かなり、痛いところをつかれたようだ。

 ちょっと他の男が、新婦をほめただけで。

 普通、そうなるか?

 自分の席で、ソウマはにこにこしてしまった。

 こんなに楽しい祝辞なら、大歓迎だった。

 これがもし、アオイ教授だったら。

 そう想像してしまった自分に、苦笑する。

 出て来たがる可能性は、高かったのだ。

 もし、カイトがちゃんと大学を卒業していたならば、間違いなく恩師という肩書きで、いまマイクの前にいたにちがいない。

 ううむ。

 大学時代を思い出す。

 アオイ教授ほど、一般の講義と、そうでない講義のおもしろさが、ばっきりと分かれる人はいなかったのだ。

 専門知識を駆使した講義は、本当にソウマも好きだった。

 のに。

 これが、講堂で行われるような、授業とは関係のない演説などになると、信じられないほど眠気を誘うのである。

 しかも、一度しゃべり始めると長く、かなり眠りも深いところに連れていかれてしまう。

 アオイ教授の演説で、眠らないのはシュウぐらいだ。

 だから、こんなところで祝辞を述べられてしまうと、おそらく間違いなく条件反射で、ソウマは眠ってしまうだろう。

 新郎はさすがに場所柄、眠らないかもしれないが、怒り狂うこと間違いナシだ。

 ああ、よかった。

 だから、アオイ教授にマイクを奪われなくて本当によかったと、ソウマは胸をなで下ろした。

 いやあ、いい祝辞だった。

 ソウマは、惜しみなく第一開発部チーフに拍手を送ったのだ。