芝居がかった進行が告げた名前は、第一開発部のチーフだった。

 カイトは驚かなかった。

 何故ならば、この決定をしたのは彼自身なのだから。

 納期前の忙しい開発室に、シュウが涼しい顔で現れて、「祝辞は誰にお願いしましょうか」ときたものだった。

 いつもの短気で「勝手にしろ!」と怒鳴りかけたカイトは、そこでハタと気づいたのだ。

 ここでうっかり勝手にされて、ソウマなんかに祝辞とやらをブチかまされた日には、何を言われるか分かったものではない。

 ただでさえ、披露宴を彼らに任せてしまったため、どういう地獄のメニューが用意されているかも分からないというのに。

 カイトは汗をかいて、うまい答えを探そうとした。

 その時。

 たまたま、仕事のことで声をかけてきたのが、チーフだったのだ。

 イケニエの、羊にしか見えなかった。

 同じエリア内で仕事をする相手で、なおかつ上下関係という立場もある。

 彼なら、当たり障りのない言葉で、済ませるだろうと思ったのだ。

『普通、祝辞は立場の上の方が…』などと、シュウはしぶっていたが、カイトが一歩も譲らなかったので、結局あきらめたようだった。

 昨日まで、地獄の納期で死にかけていただろうチーフは、それでも他の開発の連中よりは、きっちりとした態度と姿をしていた。

 よく見れば、第一のメンツは、何とか席に座っているだけで、タマシイがこの部屋の中にあるかどうかも怪しかった。

 過酷な納期の影響が、まだ色濃く残っているのが分かる。

「社長、メイさん…結婚おめでとうございます」

 ちらり、と二人の方を見やった後、微かに笑みをたたえたのは気に入らない。

 チーフは工学部上がりで、年はカイトよりはもっと上だ。

 他の開発室の連中もそうだが、彼女を作る時間もないと、ふとした雑談の時に言っていた。

 カイトとしては、色恋の雑談などを切り出される日が、職場でくるとは思っていなかった。

 どうやら、彼が結婚するという話を聞いて、そういうことを言ってもいいのだと思ったらしい。