「あっはっは、今度は最初から二人で入っていいぞ…もうあんな入場はゴメンだからな」

 教会でのことを、思い出したに違いない。

 ソウマは、カイトの向こう側で、こらえられないように笑った。

 そういえば、リンもあの結婚式は、愉快でたまらなかったようだ。

 何もかも一生懸命だったのだが、傍目にはそんなにも滑稽だったのだろうか。

 確かに、普通はあんなに引っ張られて、神父様の前まで駆けつけるなんて。ないのだろうが。

「今度は、ゆっくり歩いてあげてね……はき慣れない靴で、彼女がみんなの前で転んだら大変でしょう?」

 隠されているメイの方に、ハルコは笑顔のまま近づくと、ドレスの裾を直してくれた。

 ヴェールの位置も整えてくれる。

「分かってる!」

 細々と、うるさい親に対して言うような口調だった。

 すると、ハルコもソウマも2人して、にこーっと笑った。

 2人同時に、本当に計ったかのような微笑みだったが、どういう意図での微笑みなのか分からなかった。

「それじゃあ、私たちは先に入っているわね」

「楽しみにしているぞ」

 笑顔の2人が会場内に消えていくと、ドアの前で待機している数人のホテルの従業員以外、誰もいなくなってしまう。

 ようやく、完全ではないにせよ、2人きりになれたような気がした。

 ドアの前まで連れて行かれ、立ち位置を調整され―― 腕を組んで。

 そんな行動のさなか、チラチラと彼の方を見る。

 何か、カイトに言いたいのに。

 その何かが、分からないのだ。

 そうしている内に、いきなり視線がバチッとぶつかった。

 瞳をそらそうとしたのに出来なくて、そのまま数秒見つめ合ってしまった。

 怪訝そうな瞳が、彼女を吸い込んでしまったのだ。

 あっ。

 慌てて、視線を落として。

 いま、自分がまた赤くなってしまったのが分かった。

 瞬間。

 中から、大きな拍手がわき上がる。

 扉が、開けられてしまったのだ。
 
 ぱっと視線を上げると、強いライトに目がくらんでしまって―― 思わず、ぎゅっと彼の腕にしがみついてしまった。