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「はい、ここで待っていてね」

 にこにこ笑顔のハルコが、彼ら2人を控え室に案内する。

 本来そういう仕事は、披露宴のあるホテルの従業員がするだろうに、この妊婦ときたら、どんな招待客よりも元気だった。

「お、結構広いな」

 オマケで、その亭主がついてこなければ、もっといいのだが。

 カイトは、思わず半目になってしまった。

 夫婦のどちらも苦手だが、わざとイヤな言葉を選んだようにして絡んでくる分、ソウマの方がより苦手なのだ。

「もうすぐ披露宴会場に人が入り始めるから、全員席についたら、そこにあなたたち2人が華やかに登場するのよ…ふふふ」

 ハルコは、既にそのシーンを想像したのか、微笑みを浮かべた。

 前言撤回。

 妻の方も、かなり苦手だ。

 カイトは、顰めっ面をしたまま、はやくこの2人が出ていくことを望んでいた。

 のだが。

 控え室から人数が減るよりも先に。

「おねえちゃん!」

 どこから嗅ぎつけたのか、ちょろちょろとした物体が控え室に飛び込むと、ウェディングドレスに抱きついたのである。

「ユウちゃん!」

 メイも膝を折るようにして、その物体をのぞき込む。

「こら、ユウ!」

 後ろからは、人間離れしているバカでかい夫婦がオマケでついてきた。

 一気に、人口密度が高くなる。

 ついでに―― 平均身長も。

 思い出すまでもなかった。

 あの魚屋の一家だ。

「結婚式、ユウも出たんだよ! 手振ったのに…」

 馴れ馴れしく、メイにべったりくっつく小僧は、興奮したように言葉を続ける。

 あの時ほど、ひどい鼻声ではなかったが、まだカゼっぴきみたいな声だ。