『言いたいことは?』

 最後に、そう聞かれた。

『別に…ない』

 そう答えた。

『あ、っそ』

 そして、彼女は行ってしまった。

 そう、いま花束を受け取った女性のような――

 最初は。

 見間違いかと思った。

 白い、雪のような花束を持つ、雪のような指先。

 それに唇を寄せたことが、シンの意識の中に一瞬で甦る。

 彼女に、生き別れの双子の姉妹がいない限りは、間違いなく、正真正銘の本物の、あの。

 完全に思考で確認するより先に、彼は歩き出していた。

 彼女の目の前まで。

「あら、久しぶり」

 何事もなかったかのように、彼女はにこりと笑った。

 ほら、いいでしょう、と受け取った花束を見せる。

 シンの方は、まだ口もきけないというのに。

「私がブーケを受け取った2人は、幸せになれるのよ…ねぇ、ハルコ?」

 その事実を、誇らしそうに唇に乗せる。

 そんな彼女に。

 ようやく、一言だけ言えた。

「お茶でも…飲まないか?」

 答えは、こうだった。


「30分だったら、いいわよ」