視界に、ちらりと白いモノがひとひらだけ落ちた。

 ヴェールの軌跡を変えるほどに、強い風が吹いた瞬間のことだった。

「あっ…」

 白い蝶々を追いかけるように、メイは瞳を動かした。


 雪だった。


   ※


「おめでとう!!」

「見て、雪よ!」

 ざわめく背中が、彼女をはっと我に返らせた。

 慌てて振り返ると、一面には白い花びらが、いっぱい散り続けていた。

 寒い空気も、寒い自分の姿も―― この一瞬だけは、メイは全てを忘れて世界にみとれた。

 あぁ。

 雪。

 彼女は、その年の一番最後の雪の日に生まれた。

 本当なら、もう雪なんか降らないはずの春先の、最後の雪。

 その日から、雪は彼女にとっては幸運のお守りになったのだ。

「あら!」

 その雪に、みとれていたメイの心を奪ったのは、脇に控えていたハルコの信じられないという声だった。

 日頃、彼女が驚く声なんかほとんど知らないメイは、びっくりして彼女の方を向く。

 すると、ハルコは別の方をじっと見ていた。

 え?

 その視線の点々を追いかけていくと、華やかな女性の参列者たちの姿が見える。

 さっき、ブーケを投げた輪の中だ。

「おめでとう、あなたが次の花嫁ね」

 メイの女友達の1人が少し残念そうに、受け取った女性に声をかけていた。