しかし、彼はそんなことは気にしなかった。

 ぐっと視線をそらしたまま、引き寄せてくれる。

 あ。

 人前なのに。

 カイトだって、恥ずかしいに違いないのに。

 恥ずかしさと嬉しさが練り込まれ、メイの皮膚の内側を占める。

 きっと、これも『結婚式』という名の魔法に違いない。

「はい…笑ってください」

 ようやく距離が気に入ったのか、カメラのファインダーを覗き込んだカメラマンが腕を上げる。

 その方向を見ろということらしい。

 メイは、その動きにつられて視線を動かして止める。

「はいはい、ほら…笑って」

 手に気を取られていたので、表情がお留守になっていた。

 何とか微笑もうとするのだけれども、周囲の人の視線が目に入ってきて、なかなかうまくいかなかった。

 何度も何度も、カメラマンに笑顔を注意される。

「笑顔…笑顔…って、新郎さん! あなたですよ!」

 が。

 注意を受けていたのは、メイではなかったようだ。

 ついに、一度ファインダーから顔を上げたカメラマンは、わざとコミカルな口調でカイトを注意した。

 彼が緊張していると思って、きっと商売柄のサービス精神で、ほぐそうと思ったに違いない。

 ちらっとカイトの方を見上げると、眉間のシワが寄ったり伸びたりしていた。