ふっふっふ、やっと来たか。

 ソウマは、内心で悪人笑いをした。

 さっきの指輪の一件で、少々心が狭くなっていたので、ここで盛大にカイトに壊れてもらおうと思ったのである。

 式場に入る前に、からかいを一つ。

 その代償として、彼は背中に足形をプレゼントされてしまった。

 ここで、カイトがその言葉を思い出すだろうことは、容易に想像できる。

 その言葉通りにならないように、葛藤するかと思うと。

 カメラを抱えたまま、ソウマは緩みそうになる口元を必死で押さえたのだった。

 さて。

 今度は、一瞬で終わらされないように、ファインダーを覗き込んだ。

 ヴェールを上げることへの指示、というのは必要ないはずだ。

 キスをするには、あれは明らかに邪魔なのだから、さすがのカイトも気づくだろう。

 お、覚悟を決めているな。

 汗をかきながらも、カイトがぐっと新婦の方に向き直った。

 そして、次にようやくヴェールに気づいたらしい。

 傍目にも分かるほど、ハッとした顔をしたのだ。

 どうやら、式の正常な進行を思い出したようだ。

 もう遅いぞ。

 あきらめろ。

 さっきの指輪の交換が、そのせいでかなり台無しになったことに、今更気づいてももう後戻りは出来ないのだ。

 せいぜい後悔してろ、と内心で舌を出すだけである。

 しかし、結局ソウマは満面の笑みとなったのだ。

 彼女のヴェールを持ち上げた瞬間―― ファインダーの中のカイトが硬直したのが分かったのである。

 さて。

 オレの忠告は覚えてるかな?


 シャッターを押す指が、うずうずしてしょうがなかった。