「はい、よろしくね」

 ハルコが近づいてきたかと思うと、シュウはカメラを受け取っていた。

 折しも、式場は指輪の交換という進行の流れで、アナウンスが『カメラマンの方は…』と言い終えた直後だった。

「これは…?」

 既に、ソウマがカメラを片手に前に駆けつけようとしているのが、シュウの目の端に見えた。

 だから、疑問だったのだ。

 ハルコが何故、カメラを彼に渡そうとするのか。

 撮影ならばソウマが行っているのだから、わざわざ同じ家庭から、もう1人参加する意義はないように思えたのだ。

「いいから撮ってきてもらえないかしら? 角度が違うと、写真の出来映えも違うでしょう?」

 にっこり。

 不合理な申し出だったが、別に断る理由もない。

 シュウはカメラを片手に、前の方に進み出た。

 角度が違えば、と言われたので、あえて正面に陣取っているソウマとは、違う角度になるような位置に立つ。

 ふむ、よいカメラですね。

 ソウマが、カメラをいくつも持っているのは知っている。

 その中の一つだろう。

 彼はよく、植物絡みでいろんな国に出かけていた。

 最初の頃は、その時に撮影してきた植物の写真を、いろいろ見せられたものだった。

 途中からは、そんな誘いもかからなくなったが。

 カイトもシュウも、植物に対してさしたる興味がなかったせいだろう。

 しかし、最近その関係で外国に飛んだという話は聞かなくなった。

 彼も結婚してから、自分の人生を変えた人間の1人なのだろうか。

 結婚。

 自分のしたいことを制限されるような女性とは、そういう関係にならない方がいいようですね。


 シュウは、周囲の喧噪も気にせず、ただ必要に応じて黙々とシャッターを切りながら、そんなことを考えていたのだった。