こんな、指輪の交換を見たのは初めてだ。

 さすがにソウマは、眉間に一本シワを入れてしまった。

 カイトは、順序を何もかも間違えていたのである。

 手袋も取り忘れる、ヴェールも上げ忘れる。

 挙げ句、一瞬にして指輪をはめて終わりなのだ。

 カイトの態度に、クレームをつけようとしていたソウマは、そのためシャッターチャンスを逃してしまったのである。

 速攻どころの話ではなかった。

 そう思っているのは、ソウマだけではないようだ。

 周囲の連中も、余りの出来事に目をむいている。

 そりゃないじゃないか、と。

 普通ならば、ここはわざともったいぶってゆっくりはめるのが、カメラマンへのサービスである。

 それを、カイトは全て台無しにしてくれたのだ。

 いくら恥ずかしいからって、大事な記念写真を―― と思うのが、一般人だが、その気持ちは彼には通じないだろう。

 分かっていたとはいえ。

 ソウマの苦笑は、途切れることはなかった。

 しかし、いまは気持ちを切り替えなければならない。

 今度は、新婦から新郎への指輪をはめる儀式が残っていたのだ。

 せめてこっちくらいは、綺麗に撮ってやろう。

 少なくとも、それはメイのためにはなるはずだった。

 今度は、周囲のカメラマンたちも遠慮しない。

 シャッターチャンスを逃してなるものかという意気込みが、新婦への指示として飛びまくる。

 が。

 ヴェールを上げるように言うのが遅かった。

 おかげで。

 写真自体は綺麗に取れた―― のに、映っているのは、ぶすったれた新郎の顔だけとなってしまったのだった。