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「ここで、結婚の誓約の印に指輪の交換を致します」

 近くに控えていた、指輪を預かっていた子供が、危なっかしい足取りで近づいてくる。

 抱えている座布団のようなものの上には、彼らからひきはがされた指輪が1対載せられていて―― もう一度、これから互いの指に戻るのだ。

 それに、カイトは少しだけほっとできた。

 たかが指輪。

 されど指輪。

 はめる前までは、そんなチャラチャラしたものと思っていたのに。

 一度はめてみると、会えない間も彼女の存在を感じさせてくれる、大事な物証に思えた。

 指輪がある限り、彼女と結婚したという事実は、夢でも幻でもないのだと分かるのだ。

 リハーサルの時と、この本番。

 今まで2回、指輪を失った。

 しかし、そんな強制もこれが最後だ。

「写真を取られる方は、前の方においでください」

 進行の声が、そんなことを付け足した瞬間。

 カイトの背筋には、ゾッとする冷たいものが。

 そして、席の方からは一斉に何人かの男女が、カメラを片手に近づいてくる気配が分かった。

 メイの方を向く必要があったので、身体を横の方に向けた時―― そのイヤな光景が、無理矢理視界に入ってくる。

 今日はその役柄のせいで、所定の位置におさまっていなければならないはずのソウマでさえ、一眼レフ持参で現れたのだ。

 興味もないはずなのに、何故かシュウさえいる。

 べったり化粧を塗りたくった、母親の顔さえも見えた。

 だらだら。

 気色の悪い汗が、一気に背中に集中する。