●73
 あ。

 あした。

 メイは、がちがちに肩に力が入っていた。

 明日の結婚式のことを考えると、昨日よりももっと眠れないのだ。

 おかげで今日も、いろんなものをひっくり返してしまった。

 カイトが会社に行っててよかった―― が、それらは全部、一緒にいたハルコに目撃された挙げ句、妊婦という立場で彼女だって大変なのに、残りの仕事を奪われてしまった。

 はぁ。

 おかげで、自己嫌悪もついてくる。

 家事に関することだけは、自分が全部やりたかったのに。

『今日はもう、何もしちゃダメよ』

 明日の最終確認が全て終わって帰る時、ハルコがそう釘を刺した。

 おかげで、夕食も作っていない。

 何度も作ろうと思い立ち、調理場までは行ったのだが、今日のその場所は、夜の森のように彼女に優しくなかったのだ。

 多分、もうすぐカイトが帰ってくるだろう。

 その時に、夕食も作っていない彼女をどう思うだろうか。

 それ以前に、どう説明をしよう。

 緊張しすぎて、何も手につきませんでした?

 何て、マヌケな言い訳だろう。

 う。

 ダイニングの席に座ってため息をついていた彼女は、ちらちらと夜の森の方を見る。

『夜の森にだけには、行ってはいけないよ』

 そう禁じられた、おとぎ話の主人公の気分だ。

 言いつけを破ったら、大体不幸になるのである。

 おなかすかせて帰ってくるかなぁ。

 森の誘惑の声が聞こえる。

 ええい。

 メイは、覚悟を決めた。

 勢いよく椅子を立ち上がると、こういう日は何もかもダメなのか、椅子がガターンと後ろに倒れて、彼女を驚かせた。