とんでもないと首を横に振る彼女から、何とか写真を取り返そうと思っていたのに。


 プァッパー!!!


 後ろの方から、激しいクラクションに阻まれる。

 信号が、青になってしまったのだ。

 山ほどの悪態をつきながら、カイトは車を走らせた。

「だって……一枚も写真持ってないし」

 怒らないで。

 彼の苛立ちが分かったのか、メイが懇願するような声を出した。

 怒ってねぇ!!!

 と、思う心の声も激しいので、説得力はなかった。

 大体、写真を持っていないのはカイトも一緒だ。

 2人で、カメラのフィルムの中に収まったことなど、いままでに一度もない。

 過去の薄さを、証明する材料が積み重ねられているようで、それで余計に苛立つ。

『気持ちが通じてさえいれば、このくらいじゃ不安にならないはずだぞ?』

 リハーサルの時に、ソウマがムカつくことを言った。

 指輪を外して、不承不承彼に預ける時のことだ。

 その時は、『るせー!』と聞く耳も持たなかったのだが、結局図星だった。

 指輪がなくても写真がなくても―― 本当にお互いの『好き』がしっかりさえしていたら、いちいちグラつかずに済むものを。

 そこを、他人に鋭く指摘されたのが腹立たしい。

 写真なんかなくても。

 オレがいるじゃねーか。

 過去のカイトよりも、いま現物がここにいるのだ。

 そんなに顔が見たいなら、いつだって見せてやるのに。

 そんなもんより、オレを見ろ。

 このセリフを言うために、さんざんいろんなものを総動員していたのだが。

 それが、全て準備を整えるより先に、車は家に帰り着く。


 その夜―― またもムキになって、カイトは自分を主張してしまった。