それに、寒いのにいつまでも、玄関前になんかいたくなかった。

 さっさとお風呂に入って、メールチェックして、チャットでみんなに挨拶くらいしないと。

 寝る前に、彼女はいろいろやることがあるのだ。

「あ、そういえば、鋼南電気に勤務してるって言うのは本当か?」

 しかし、ドアに手をかけた時、キズオに呼び止められる。

 へぇ。

 少し意外な思いを抱えながら、彼女は振り返った。

 あのキズオの口から、会社の名前が出てくるとは思ってもみなかったからだ。

 彼が、ゲームをやっているところなど、想像もつかない。

「そうよ、それが何?」

 それとも、うちの会社が何か後ろ暗いことをして、ガサ入れでもあるのだろうか。

 何しろ、キズオはヤクザではなく、警察官なのだ。

 ただし、一介の派出所の巡査だけれども。

 安月給の公務員と、ユキは結婚する気なのか。

 警察官というよりも、ヤクザの方に近い顔をしているというのに。

「いや…大したことじゃないんだが……社長は、どんな人だ?」

 ピクン。

 またも、ハナのアンテナに引っかかる。

 コウノについて、聞いているのだ。

 ますます、怪しかった―― 社長が、何かやらかしたのだろうか。

 色々、思いつけそうな気がした。

 うっかり軍部のコンピュータをハッキングしたが、それでアシがついたとか。

 そんなことがあったとしても、巡査が関わる仕事ではないことを、彼女はうっかり失念していた。

「どんな人って…若いわよ。若くて自信家で、腕が良くて、でもいつもムッツリしてて怒鳴ってばっかで…結婚式の招待状もくれないケチな男よ!」

 だんだん、今日の不機嫌を思い出して、ハナは口調の速度をアップしてしまった。