その彼女が。

 カイトに、何か隠し事をしていた。

 クローゼットの中に、彼の知らない秘密が詰まっているのだ。

 彼だって、その家具を開けたことくらいある。

 しかし、最近は彼女が背広の準備などをしておいてくれるので、わざわざ開けて取り出すようなことはなくなっていた。

 出してあるのを、着ていくだけだ。

 秘密の一つくらい。

 誰だって持ってるぜ、とカイトは自分に言い聞かせようとした。

 彼だって、全てを彼女に話せるワケではない。

 聞いて欲しくないことだって、色々あるのだ。

 だから、変に詮索してはいけない。

 メイに、信用されていないとか、束縛されているとか思われたくなかったのだ。

「シャチョー…すごい怖い顔してますよ」

 ハナが、まるで彼の顔真似でもしているかのように、眉間にシワを刻む。

「そんなに、厄介なバグだったんですか?」

 ディスプレイを覗き込まれたが、そこはすでに修正済みの画面だ。

「んでもねぇ…仕事しろ」

 妻のことが、気になってしょうがないなんて、どのツラさげて言えるのか。

 勿論言えないカイトは、彼女を遠くに追いやろうとした。

「仕事してますよ! 私の見つけたバグは、昨日で300カ所を突破したんですよ! やっぱり私って、必要な人材だと思いません??」

 そしてまた、コトあるごとに自分をアピールしていく。

 既に第3開発室に入り、開発を手がけているのだから、それで良さそうなものなのだが、どうやら彼女の野望はもっと高いところにあるらしい。

 わざわざ、具体的な数値を提示してまで攻勢に出てくる。

 カイトにしてみれば、そのアピールの内容よりも、自分のバグチェックの数をカウントしていた方を感心したかった。