そして、ようやく掃除が終わった。

 花も、溢れんばかりに活けられた。

 見違えるほど、綺麗なお墓になって。

「お父さん…今まで放っておいてごめんね」

 墓の前に立ちつくしたまま、彼女は小さな声で墓に呼びかけた。

 娘の声だ。

 顔は、後ろにいるカイトから見えないが、きっと娘の顔になっているに違いなかった。

 カイトの、知らない時代のメイ。

「私の、一番大事な人を連れてきたよ。お父さんは、自分の方がカッコイイと言うかもしれないけど、それはお母さんが思ってるからいいよね?」

 背中が。

 小さく震える。

 カイトの目の前で。

「カイトって言うの。ゲームソフトを作ってるの…まだ、私はやったことないけど、きっとすごく面白いよ。お父さんは、ユウちゃんのやってたマリオで、マリオと一緒に動いて笑われちゃったけど」

 とりとめのない言葉。

 彼は、その背中をじっと見ていた。

 邪魔をしてはいけなかった。

 いまは、メイが大事な父親と話をしているのだ。

「私ね…カイトが酔って帰ってきたら、靴下を脱がせてあげるの。そしたら、私も立派な奥さんだよね? ご飯を作って、カイトにおかえりって言って、そんな毎日毎日を大事にして…ずっとずっと彼のことを好きでいたら…私でも、ちゃんとお母さんみたいな奥さんになれるよね…おかあさんみた…い…」

 邪魔。

 してはいけないと思っているのに。

 震える声。

 愛しい気持ち。

 溢れ返る思いを、どうして我慢なんか出来よう。

 カイトは、彼女を抱きしめた。