「すごく、素敵なお話だったね」

 帰り道の車の中で、そんな風に話を振られても困るのだ。

 カイトは、本当にほとんど何も聞いていなかったのだから。

 前半は、会社のソフトのことをずっと考えていたし、後半はメイを抱き寄せていることに集中しすぎて、それどころではなかったのだ。

 ああ、とか、うう、とか曖昧に答えながら、それ以上の言及を避けた。

「ああいう話を聞くと、自分がいろんな人に愛されてここまで来たって…それが、少し分かったような気がするの。お父さんとか、近所の人とか、友達とか……他にもいっぱい」

 だんだん、最後の声が小さくなる。

 オレは!?

 カイトの耳は、ダンボになった。

 確かに、親や友達はメイを愛していただろう。

 しかし、今はオレが一番―― また、悪い病気が出てしまったのである。

「その感謝の気持ちをずっと、大切にしていきたいな…あっ、何か一人で恥ずかしいことばっかり言ってるね…あは…」

 しみじみと、語りモードに入ってしまったことに気づいたメイが、恥ずかしそうに笑って言葉を切る。

 オレは!?

 しかし、カイトの心は全然決着がついていなかった。

 好きだとは昨日も言われたのだから、それで満足なはずなのに、何となく自分の名前が出てこないのが淋しかったのだ。

 だが、そんなことを口に出して、彼女に言うことは出来ない。

 それでは、メイの素直な気持ちというよりも、強制になってしまうからだ。

「カイトも、きっといろんな人に愛されてここまで来たのよね」

 ふっと。

 彼女が、そう言った。

 照れ隠しのために、カイトに恥ずかしい爆弾を投げてよこしたのだ。

 ぶっっっ!

 何か飲んでいたワケではないが、ハンドルを握ったままカイトは吹いてしまった。

 いきなり、そんな優しくて寒い言葉を言われたからだ。