「結婚講座はいいぞぉ。心が洗われるぞ…お前の目から、ウロコが落ちるのを、是非見たいもんだな」

 はっはっは。

 ソウマは。

 余裕のある笑みというよりは、『ざまーみろ』という空気を含んでいた。

 おそらく、この結婚講座なる内容が、カイトにとっては拷問のようなものなのだろう。

 彼は、それを知っているのである。

「月曜日の夜7時から2時間くらいの講座よ。明日と、来週の月曜日の2回ね。ちゃんと一緒に受けないと、結婚式はなくなると思ってね」

 ハルコの発言が終わる直前、ソウマの身体が跳ね上がった。

 その後の、視線の交わし合いから判断するに、彼女は夫の身体をつねり上げたのだろう。

 さっきの彼の発言を、妻は気に入らなかったのか。

 そういえば、この2人の結婚もカイトたちほどではないとは言え、決まってからはスピーディーだった。

 2ヶ月くらい、だったか。

 あの時は、カイトもいろいろとばっちりを食った。

 いきなり仕事のできる秘書が、職場から連れ去られたのである。

 そう。文字通り、ソウマは『職場からハルコを連れ去った』のだ。

 あんなに、彼女にトチ狂っているとは思わなかった。

 いままでは、何でも分かり合った恋人同士の顔で、大人の恋愛とやらをしているように思えていたのに、いざフタを開けてみたら、見たこともないソウマがいたのである。

『こいつは返してもらうぞ!』

 ドアの外の喧噪に気づいて、カイトが社長室から飛び出してきた時―― ソウマはそう宣言した。

 事態を把握できない彼の目には、ソウマがハルコを肩に担ぎ上げている姿が。

 バタバタする脚から、黒いハイヒールが片方脱げて床に転がった。

 唖然とするしかなかった。

 この事件が起きる直前くらいまで、2人がケンカらしいものをしているのは分かっていたのだが、こんな騒動にまで発展するとは思っていなかった。