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「よぉ、元気そうじゃないか」

 ……来やがった。

 カイトは、半目でドアの方を見た。

 性懲りもなく、ソウマ夫婦がご入場してきたのである。

 怒鳴って叩き出さないのは、昨日の約束をすっぽかした後ろめたさがあるためだ。

 ちょっとくらいなら我慢してやる、というところだった。

 しかし、長居は望んでいない。

 彼女との生活を、しっかり身体に刻みつけようとしている日々なのに、なかなかうまくいかないせいで、他人に対して広い心が持てないのだ。

 結婚式という、大きなイベントが立ちふさがってしまったせいもあるだろうが、つい数日前まで、女性の神秘な部分に振り回された影響も大きかった。

 触れたいのに触れられないというジレンマが、いろんなものを総動員してカイトを責め立てたのである。

 ようやく、大きな瓦礫は取り除かれたが、大邸宅を建て直すまでには全然遠かったのだ。

 しかし、本日のソウマは、少々表情がよろしくなかった。

 いつものにこやかな微笑みとは、少々色合いが違っていたのだ。

 いや、確かに微笑んではいる。

 微笑んではいるのだが、腹に一物ある微笑みだった。

 昨日、すっぽかしたことを、ネに持っているのだろうか。

 心の狭い男だ。

「昨日はどうも……」

 部屋まで案内してきたメイが、小さくなりながら2人に詫びの姿勢を見せる。

 その身体を、ぐいっと引っ張って、自分の陣営に連れ込んだ。

 昨日の件で謝るとしたら、彼女ではなく自分で。

 しかし。

 面と向かって、ソウマに謝る気などなかった。

 まだこの時点で怒鳴っていないのだから、そこから悟れ、というところだ。

「いいのよ…カイト君に邪魔されなかった分、素敵なプランが組めたのよ。場所と時間しか決まっていなかったものね」

 ハルコが、にっこり微笑む。