ぱっと、その指先の方に視線を向けると。

 カイトの親指が、間近にあった。

 そこには。

 黒い、筋が。

 きゃー!!!!!

 メイは。

 自分の顔に墨をつけていたのである。

 筆ペンの墨であることは、間違いなかった。

 指を汚した後、そのまま顔を触ってしまったか、カイトに見とれて、うっかり頬に落書きをしてしまったか。

 さっきまで、カイトを見てどきどきしていた自分の顔が、一気にマヌケなものに思えた。

 彼にしてみれば、さぞや笑える顔だっただろう。

 まるで、羽子板で負けた時のようなビジュアルがちらつくせいで、恥ずかしさもひとしおだった。

「あっ、あ…」

 おそらく、墨はまだ自分の頬に残っているだろう。

 たかが指で拭われたくらいでは、完全に落ちるはずがないのだ。

 いつまでも、頬に入れ墨をしているワケにはいかない。

 おまけに、今の顔をカイトに見られるのは、もっと恥ずかしい。

 早く洗面所に逃げて、顔を洗ってこなければ。

 慌てる意識の中で、とにかくそれだけは分かったので、彼女は立ち上がった。

 口に出てくる言葉は、意味もないものだ。

 それが、更に恥ずかしさを煽る。

 とにかく。

 彼女は、カイトの視線から逃げ出そうとしたのだ。

 けれども―― 腕を捕まれる。

 また、頬に触れられる。

 反射的に首を竦めて目を閉じてしまったら。

 あっ。

 その感触が分かってしまった。

 カイトが、彼女の頬を舐めたのだ。

 おそらく、汚れた墨が残っているだろう部分を。