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 るんるるーん。

 メイは、床から少し足が浮いていた。

 お天気もよくて、さわやかすぎる日曜の午後だ。

 彼女は、調理場の方でお湯をわかして、お茶の準備をする。

 勿論、用意するのはあのマグカップを二つ。

 メイの方は紅茶なのだから、ティーカップにすればいいはずだ。

 その食器もちゃんとあるというのに、彼女は二つのマグカップをトレイの上に並べては、にこにこするのである。

 何度も何度も、トレイの上でくるっと回して角度を調整したり、位置を変えてみたり。

 ずっと眺めていたかった。

 これから、二人でお茶をするのだ。

 昨日、引っ越しがようやく終わって帰ってきて。

 そして―― 夜に、お茶をした。

 出ていく前の時のような、静かなお茶の時間が、また戻ってきたのだ。

 しかし、あの頃とはかなり雰囲気が違って、それが彼女を驚かせた。

 前のカイトは、割とゆっくりお茶を飲んでくれたのに、昨日の彼はかなりのハイペースで。

 そんなに喉が乾いていたのかと思い、おかわりをついでこようかと聞くと、『いらねぇ』と即答が返ってきた。

 きっと、下までコーヒーを用意しにいく彼女に遠慮したのだろう。

 上の部屋の方に、お茶の用意が出来る環境があればいいな、とちょっと思ったけれども、そんなゼイタクなことを言ったら、バチが当たりそうだった。

 メイも飲み終わって。

 それから、二つのマグカップを片づけようと思ったけれども。

 できなかった。

 後片づけをしないと気になると言ったにもかかわらず、昨日の彼は譲ってくれなかったのだ。

 そして、そのまま。

 かぁっっ。

 メイは、カイトのマグカップを両手で持ったまま、真っ赤になってしまった。

 その先のコメントを、何も考えられなくなってしまったのだ。