あきらかに、ベッドの外に出ようとするような動きだ。

 あの音は、カイトの安眠を妨害しただけでなく、彼の妻、メイまでも連れて行こうとしていたのである。

 こんな、許せないことはなかった。

「きゃっっ!」

 驚く身体を、彼は強く引きずり戻した。

『行くな!』、という意味を込めたのだが、ただでさえ言語中枢に問題のあるカイトだ。

 起き抜けでは、余計に制御が聞かず、無言での行動になってしまった。

 そのまま、ベッドの中で抱き込む。

「あっ! カイト……電話」

 驚きながらも、自分がベッドを出る目的を伝えようとする体温。

 ギロッと音の方を睨むと―― 机の上の携帯電話が目に入る。

 安眠妨害の犯人は、あれだったのだ。

「出んな」

 相手が誰にせよ、この2人の時間を奪い取る相手であることは間違いないのだ。

 いきなり現実に引き戻されて、2人よそよそしく服を着て、何事もなかったかのような生活を始めるための、別れの合図と同じだった。

 せっかくの、週末の朝くらい。

 少しくらい。

 カイトが、自分の希望を前面に押し出そうとした、その時。

「あっ!」

 腕の中のメイが、ひどく驚いた声をあげる。

 ん? と、彼女の向いている方向に視線をやると、それはケイタイの方ではなく、枕元だった。

 チクタクの時計。

 針は、ちょうど傾いた状態で重なっていた。

 左に45度ほど。

 10時―― 50分。

「ど、どうしよう!! 今日の打ち合わせ、10時半からだったのに!!」

 腕の中の身体の温度が、ふっと下がったのが分かった。

 後ろから抱きしめているので見えないけれども、きっと青ざめているのだろう。

 おめーが、体温下げるほどのことか。

 カイトは面白くなかった。