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 るせぇ。

 耳障りな音に、眉間のシワを深くしながら、シーツのシワに顔を埋める。

 そうしていれば、聞こえないというワケではないのだが、より現実から遠くに逃げられるような気がする。

 柔らかいベッドの感触や、わずかに香る人肌の匂い。

 第一、この天国のような毛布の中から出ていくことを、誰が望むだろうか。

 それに―― 狡猾なカイトの脳は、今日が休みだということだけは覚えていた。

 だから、仕事に行くために慌てて起きなくてもいいのだ。

 なのに。

 音は、辛抱強く鳴り続けた。

 その音が一秒長くなるごとに、カイトは眉間のシワを濃くしていくのだが、一向に鳴りやむ気配はない。

 この居心地のいい世界を死守しようと、必死に意識の覚醒を拒んだ。

 彼の怒りをおそれたのか、ようやく音が途絶えた。

 ほっとする。

 もう、安眠を邪魔するものはないように思えた。

 が。

 また鳴り出した。

 同じ音だ。

 ………!

 ブッ殺す。

 カイトの散漫な意識は、それでも明確にその単語を作り上げた。

 安眠を妨害するものは、何モノも許せないと思うタイミング。

 ギシッ。

 だが。

 自分の眠っているベッドが、微かにきしんだ瞬間―― カイトは、目をばっと見開いていた。

 一瞬にして、いまの音の意味が分かったからである。

 このベッドの中の、もう一つの意識が、そのうるさい音で目覚めたのだ。

 音の方を向いて戸惑っている素肌の背中が、カイトの視界に映った。