「んっ…」

 パジャマの上から、身体が探られる。

 大きな手が―― ああ、きっと左手が。

 胸を、ほとんど掴まれると言った方が、確かな強さで探られる。

 触れるなんて、生やさしいものじゃない。

 しかし、痛いと思うよりも、彼に触れられているという嬉しさの方が、遙か前方を駆け抜けていた。

 もっと触れて。

 彼になら。

 手づかみで食べられたかった。

 箸やフォークや、そういう理性的な道具はいらない。

 手づかみは、確かに野蛮で見栄えも綺麗じゃないかもしれない。

 でも、ただ一途に全身で食べられているのだということが、細胞の一つ一つにまで伝わるのだ。

 意識も、パジャマも、むしり取られる。

 お互い、『好きだ』という言葉しか抱えていない生き物になった。

 言葉は、ない。

 カイトだけじゃない。メイもだ。

 2人とも、ずっと我慢していた空腹の状態で、目の前にいきなり大好物の料理を差し出された気分なのだ。

 そんな時に、言葉を考えている余裕などない。

 ただ、食べるので精一杯だ。

 自分を満たすので、精一杯なのである。

 気持ちをいっぱいに込めて、カイトの身体にすがりつく。

 自分の身体の方が、どんな気持ちより一番正直だった。

 こらえきれない彼の気持ちと、愛しすぎる自分の気持ちを、両方同時に満たすためにやわらかく溶けたのだ。


 煮くずれるのではないかと、心配するヒマもなく―― カイトが、一瞬で崩してくれた。