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「シャチョー、顔色悪いですよ…大丈夫ですか?」

 人のことを、こんな風にカタカナで呼ぶ人間は、そうはいない。

 おまけに、声は甲高く―― 寝不足+疲労ゲージMAXを越えているカイトの脳に突き刺さった。

 ジロリ。

 ただでさえ目つきが悪いのに、更にひどい目つきで声の方を見やる。

 顎一つ動かさず、視線だけだ。

 ハナである。

 先日からこっちの方に応援で来ているが、まったくもってタフネスであることを、彼女は堂々と証明してみせた。

 応援なのだから適当に帰ればいいものを、着替えまで持参で、徹夜にはつきあうわ、男連中が山ほどいる真ん中で、堂々と仮眠をするわ。

 無防備なのか剛胆なのか。

 とにかく、この業界で必要な図太さと体力は、持ち合わせているようだった。

 彼女は、自力で自分が使える存在であることをアピールしていたし、それはほぼ成功と言ってもよかった。

「うわー…死相出てます! 死相!」

 そんなハナは、彼の表情を見るや、またも騒ぎ立てる。

 死相くらい、珍しくもない。

 いま鏡を見れば、いつだってそれを見ることが出来るのだ。

 いや、ハナもその顔のことを言っているのだが。

 カイトは、彼女の声を無視して、再び仕事に取り組み始めた。

 こんなにまでも、我慢するということが苦痛になるとは思わなかった。

 昨日こそ絶対にヤバイと思い、カイトは帰らない決心をしたのだ。

 仕事は忙しい。

 しかし、どうしても徹夜しなければならないワケではなかった。

「帰れねぇ」

 そう告げる時に痛んだ胸は、その後のメイの寂しげな声で、更に追い打ちがかけられる。

 電話の声は、ケイタイを切った後でも、ずっとカイトの心の中に残っていた。