思考がはっきりしないのか、二度ほど頭を左右に振った後、背広の上着だけ脱いだ状態で、ベッドに向かうのだ。

「1時間したら起こしてくれ」

 ため息の成分が、多く含まれる声で、カイトはそう言った。

 その言葉が、最後だった。

 バタン。

 キュー。

 メイは、はっと我に返って、慌ててベッドに駆け寄った。

 彼は、ベッドにたどりついたかと思うと倒れ込み、そのまま眠ってしまったのである。

 そう。

 カイトは、布団の上に眠ってしまったのだ。

 メイは何とか布団の中に押し込もうとしたが、カイトが重石になっていて、なかなか思うようにならなかった。

 とりあえず、内側の毛布だけは引っぱり出せた。

 それを、かけてやる。

 ダブル用の大きな毛布だ。

 1時間たったら。

 毛布の中で熟睡しているカイトを眺めながら、さっきの言葉を思い出す。

 1時間。

 それだけ眠ったら、また会社に行くということだろうか。

 たった1時間眠るためだけに、わざわざ家に帰ってきたというのだろうか。

 会社だって、どこなりと眠る場所があるはずだ。

 往復の移動時間をプラスすると2時間くらいは、仮眠が取れるはずなのに―― 帰れないと言ったのに。

 カイトは、帰ってきてくれたのだ。

 何で?

 その疑問を、押しのける気持ちがあった。

 嬉しい。

 胸の中で、その言葉がこぽんと、気泡のようにわき上がって弾けたのだ。

 メイは。

 彼の毛布の中にもぐりこむ。

 いまの自分の気持ちを、彼に伝えたかったのだ。

 たとえ、眠っている相手だとしても。

 いや、眠っているからこそ、恥ずかしさを彼に知られることなく出来るのである。

 ぎゅっと。

 眠っているカイトを、抱きしめた。