「何かあったの?」

 帰りに一休みした喫茶店で、ハルコに聞かれた。

 彼女相手には、どんな気持ちも見抜かれてしまうのではないだろうか。

「いえ…あの…彼の仕事が忙しそうで、大変そうで…ちょっと心配で」

 当たり障りのない表現をする。

 結婚式のことで、ハルコには本当にお世話になっているのだ。

 その心に、変な影を差したくなかった。

 結婚というものは、『恋』が『情』に変わることが多いのだという。

 毎日、当たり前のように食べるご飯になることだ。

 特別なおかずの何かでもなく、いろんな特別の脇に、いつもいる存在になるということ。

 夢を見てばかりいるのではなく、ちゃんとそういうこともメイは覚えなければならない時期が来ただけなのだ。

 きっとみんな、それを乗り越えているに違いなかった。

「ああ、そうねぇ。納期前は、いつも徹夜ばっかりだったから…寂しいでしょう?」

 ハルコは、秘書時代を思い出したのか、苦笑を浮かべた。

 彼女も匂わせているように、今はそんなに大変な仕事をしている時なのだ。

 徹夜がないだけ、きっと今はマシな方だろう。

 もしも、『今日は帰らない』と言われたら、彼女はどうすればいいのだろうか。

 いや、どうするもこうするも―― 我慢して慣れるほかない。

 365日、毎夜同じベッドで眠れるはずがないのだ。

 仕事の都合もあるだろうし、その他の理由もあるかもしれない。

 一人で留守番も出来ないのでは、カイトが安心して家を任せられないではないか。

 忙しい時にかまって欲しいなんて、それはワガママだ。

 自分の都合だけで、寂しいとかをカイトに押しつけたら、きっと彼は困ってしまうだろうし、変な風に思われてしまうかもしれない。