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 メイは、心配でしょうがなかった。

 カイトが、日に日にやつれていくように見えたからだ。

 仕事で忙しいのは、見ているだけで分かった。

 夜も遅いし、生活も不規則で、寝不足だということは間違いない。

 まとめて週末にゆっくり休めるかというと、そういうワケにもいかなかった。

 結婚式のための、色々な用意らしきものが、これからもずっと立ちふさがっているのである。

 倒れたりしないか。

 それが、一番不安だった。

 結婚式どころでは、なくなってしまう。

 彼女だって悲しい。

 今でさえ、カイトの仕事の忙しさで、寂しい思いをしているのだ。

 今朝―― 抱きしめられたのは、一瞬だけだった。

 あっと思ったら引き剥がされて、カイトは駆け出すように出勤してしまったのである。

 気をつけてね。

 そう言いたかったのに、メイは寒い冬の玄関に取り残されたまま、彼の車が出ていくのを見ていた。

 キスもない。

 一昨日も、昨日も、今日も。

 一回もない。

 でも、よく考えたらそれが普通なのかもしれない。

 カイトだって、いつまでも新鮮なことばかりではないのだ。

 彼の性格自体、そういうことを喜んでするタイプには見えなかった。

 だから、今の方がカイトにとっては、きっと普通なのだろう。

『男の人には、全部見せちゃダメよ。安心されて飽きられちゃうからね』

 学生時代、女友達の一人が恋愛のテクニックとやらを、そんな風に教えてくれた。

 分からないということが不安につながり、いろんなことを新鮮に見せてくれるのだと。

 どんな好きな料理だって、毎朝、毎昼、毎晩食べさせられたら、最後には見たくもなくなるものでしょう―― その例えは分かりやすくて、彼女も当時、納得したものだった。