個室にいたのは、ほんの一分だけだった。

 カイトは、そこからすごい形相で飛び出したのだ。

 とんでもないことだった。

 率直に言えば―― 出来なかったのである。

 止まりそうな心臓を押さえながら、カイトはベッドに座り込んだ。

 走り回ったワケでもないのに、息がゼイゼイと荒くなってしまう。

 出来なかった。

 その事実は、彼を呆然とさせた。

 しかも、その理由はたった一つだった。

 メイ以外の女を、思い浮かべることが出来なかったせいだ。

 最強最悪の敗因だった。

 最初に、彼女の顔がちらついた。

 カイトは、慌てて払った。

 いくら妻になったとは言え、メイをそういうことに使えなかったのだ。

 自分の中で、スーパースペシャルデラックスゴージャスな唯一の椅子に座らせている相手を、想像とはいえ汚すなんて出来なかった。

 いや、想像だからこそ、余計に汚しているような気になるのだ。

 男の生理という、ケダモノの弟の獲物になんか出来なかった。

 だから、何とか他の女を思い出そうとする。

 誰でもよかった。

 適当に記憶を見繕って合成して、頭の中にムービーを流せばそれで済むはずだったのだ。

 しかし。

 そうすると。

 ますますデキなくなったのだ。

 頭の中によぎるほかの女たちを考えると、それがまるで浮気でもしているような罪悪感を、ずっしりとカイトに植え付けたのである。

 挙げ句。

 荒れ狂っているはずの弟は―― わずかな興味も示さなかったのだ。

 こんな女たちじゃ、タタねぇ。

 そう言って、指一本動かす気にならなかったのである。