また『笑って』というお願いでさえなければ、カイトは何だって彼女の望みを叶えてやりたかった。

 そして、メイを幸せにしているのだという、確固たる手応えが欲しかったのである。

 大体。

 まだ、『お願い』という形式を取っているのが、彼にしてみれば嬉しくないところだった。

 欲しいものや、して欲しいことがあれば、『お願い』を最初に言うのではなく、『~が欲しい』と言えばいいのである。

 しかし、それはメイの性格上、不可能なのかもしれない。

 そう、最近カイトは思うようになってきた。

 だからこそ余計に、彼女が勇気を出してまで言おうとする『お願い』は、何でも叶えたかった。

 そんな思いは、山ほど心の中で溢れ返るのに。

 出てくる言葉ときたら。

『遠慮…すんな、言え』、などという、短くて深みのないものなのだ。

 彼は、言葉に深みを持たせるのが苦手なのだ。

 いつも、自分の思いを的確に伝えることが出来ない。

「あ、うん…あのね……明日か、明後日か時間ある? 多分、半日くらいあれば…大丈夫と思うんだけど」

 メイは、言いにくそうにしながらそう続けた。

 まだ、ちっともカイトは要領を得ない。

 土曜か日曜に、カイトの時間をもらえないだろうか―― そういうことを言っているらしい。

 あ……。

 カイトの中でさえうまく音にはならなかったが、『有り余ってる!』というものが一番近かったか。

 たかが週末の半日を、メイに拘束されるくらい、痛くもかゆくもなかった。

 それどころか、丸2日間拘束されたいくらいだったのだ。

 いや。

 そうではない。

 最初からカイトは、丸2日間メイを拘束するつもりだったのである。

 ずっと自分のそばに置いておいて、彼女の存在というものを全身に焼き付けたかった。

 そうすれば、少しはこのぎこちなさが取れるように思えたのだ。