掃除してやがる。

 カイトは、感心した。

 玄関まわりが綺麗になっている上に、靴箱の上には花なんか生けているのだ。

 出しっぱなしなはずの靴も、どうやら靴箱に綺麗に押し込んでいるようで。

 さすがに、息子の妻が来るということで、母親も気を使ったらしい。

「カイト? 帰ってきたの?」

 その母親本人が、近づいてくる声がした。

 帰ってきたのと言いながら、すでに確信しているようだった。

 しかし、声が少しうわずっているのは、やはり初めて会う相手が来たということで、緊張しているのだろうか。

「おう」

 どうにも、母親相手の言葉も難しいものだ。

 反抗期を過ぎてからは、滅多にコミュニケーションを取らない生活が続いたし、相手が構ってくるのが鬱陶しいばかりだと思っていた時期もあった。

 その上、昔から自分のバカなところも何もかも、知られている相手なのである。

 母親という地位にいなければ、抹殺に値したかもしれない。

「ああ、もう遅いじゃない…待ってたのよ」

 ひょっこりと玄関に顔を出す母親。

 彼の色具合と体型は、母親にもらったとしか思えなかった。

 同じ髪と目。

 痩せ形で髪も短くしているので、並んでいなくても親子だとバレてしまう。

 この時、既にカイトは自分の踵をうまく使って、靴を半分脱ぎかけていた。

 狭いマンションの玄関なのだから、2人がずっと立っているには悪いところだったのだ。

 しかし、母親の目は、息子なんて見ていない。

 声は彼に向けていたけれども、その奥の存在が気になって気になってしょうがないようである。

 んなに、見んな!

 気恥ずかしさが高まって母親を睨みつけるが、そんなカイトの様子などお構いなしだ。

 やっぱり、このまま帰りたくてしょうがなかった。

 最後まで、こんな好奇の目に、さらされなければならないのだろうか。

 勝手知ったる自分の親相手に、こんな思いをするなんて―― 具合が悪くてしょうがなかった。