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 ガッチコーン。

 ちらりと隣を見ると、それはもう緊張していますという顔のメイがいた。

 カイトの親の住む、マンションの扉の前。

 まるで、これからみんなの前で、演説でもさせられるかのようだ。

 ちょっとでも脅かせば、走って逃げるくらいの心拍数を刻んでいるに違いない。

「おい…」

 声をかけると、それだけでもビクッと顔を上げて。

 どうしよう、私。

 そんな言葉が、聞こえてきそうな目で見上げられる。

 どうもすんな。

 カイトは、眉間のシワでそう答えた。

 本当に、どうもしなくていいのだ。

 来る途中の車内で、5回は『私、おかしくないかな』という言葉を聞かされた。

 おかしいどころか。

 今日のメイは、ワンピースとジャケットという姿で。

 化粧も綺麗にしている。

 こんなにめかしこんでる彼女を、いくら自分の親とは言え、カイトは見せたくなかった。

 それ以前に、彼の両親のためにそこまでめかしこんだという事実も、面白くないのである。

 ほら、可愛い女だろう。

 などと、人に見せびらかす趣味はカイトにはないのだ。

 それどころか、『見んな!!!』と思う方が強い。

 彼女の可愛さとかは、自分一人が知っていればいいところであって、ほかのヤツになど一かけらだって分けてやるものか、と思っているのだから。

 ほんの少しでも外部にこぼれ落ちると、自分の取り分が減ってしまったような苛立たしさを覚えるのである。

 だから。

 彼女が望むまでもなく、このまま帰りたいと思っているのは―― 本当は、カイトの方なのだ。

 大体、このマンションは大昔から住んでいるところで、一階上にはシュウの両親が未だ健在だ。

 時々入れ替わりはあるものの、周辺住民にはカイトの顔は知れ渡っている。