「あっ……!」

 なのに。

 横から近づいた力が、メイをぐっと引き寄せる。

 吐息が、かかった。

 それくらい、彼が側にいるのが分かる。

 え? え? え???

 完全にないと思っていた事態だけに、彼女は硬直した。

 そしてパニックになった。

 まさか、あの言葉はちゃんと伝わらなかったのだろうか、と。

 そんなハズはない。

 彼は、メイがイヤがることは、何もしない人だというのに。

 自分の反論通り、それ以上は何もなかった。

 そうなのだ。

 カイトは、ただぎゅっと抱きしめてくれているだけなのである。

 嬉しい。

 身体じゃなくて、心をいま抱きしめてくれているような気がした。

 真っ直ぐで力強い、彼の気持ちを感じる。

 あんな言葉くらいでは、何も揺らがないのだと、この腕が教えてくれるのだ。

 すごく幸せで、どうしたらいいのか分からなくなりそうだった。

 その気持ちをいっぱいに押し込めて、彼女もぎゅっと抱きしめる。

 すると、カイトがビクッとしたのが分かった。

「大好き…」

 その腕に、小さく言うと。

 また、彼がビクッとする。

 どうかしたのかと顔をあげようとしたら、もっとぎゅっと強く抱きしめられてしまった。

「寝ろ…!」

 言い捨てるような言葉だ。

 照れているのだろうか、とメイは解釈した。

 ちょっと笑いそうになるのをぐっとこらえて、彼の身体に頭をすり寄せた。


 でも、もうちょっと力を緩めてくれないと眠れない―― それは、彼女は言わなかったけれども。