ドクン、ドクン。

 自分の心臓の音がうるさいくらいに、世界は静かだ。

 そのせいで、彼女の寝息さえ聞こえなくなってしまうし、逆に起こしてしまうんじゃないかとヒヤヒヤした。

 抱き上げる。

 腕に。

 肩に。

 背筋に。

 身体の全部が、メイの存在を感じた。

 完全に抱え上げた時、心配でちらりと彼女を見たが―― 前と同じように安らかな寝顔があった。

 オレの腕の中で。

 穏やかに眠っているという事実が、カイトを幸せにした。

 その感触を、身体中に刻みつけるように一歩ずつ歩く。

 ベッドの前までは、何だかあっという間だった。

 腕がしびれるまで、こうしていたってよかったのに。

 名残惜しく、カイトは彼女をベッドに下ろすと布団をかけてやった。

 いきなり。

 自分の腕が、彼女を失ってしまったことについて、一斉に抗議を始める。

 ほとんど毎夜、メイとベッドに入る意味は決まっていた。

 彼女が眠ってしまって、じゃあ今夜は清らかにおやすみなさい、と言われると、腕の方が不平不満を伝えるのだ。

 清らかな夜だって、彼女のためだったら1日、2日我慢してやる、と思っているのだが、完全に離れて眠るなんて考えられなかった。

 何もかも、腕の野郎がいけないのである。

 カイトは、ベッドの反対側からもぐりこんだ。

 リモコンで、全消灯にする。

 真っ暗になる。

 これなら。


 どんなに彼女を抱え込んで眠ったとしても、誰にも見られたりはしないだろう。