メイは、一度指輪に触れる自分の指の角度を調整しなおした後、一生懸命な顔でぐっと力を入れた。

 皮膚を擦る感触の後、かすかな拘束感が薬指の根本にあった。

 ついに。

 彼の左手に、おさまってしまったのである。

 しかし、はめ終わったからといって、メイはすぐに手を離してしまわなかった。

 そのまま、じっと彼の指輪をみているのである。

 顔が上がる。

「ほら…すごく似合う」

 嬉しさを隠しきれない瞳が、カイトを見上げた。

 どこが似合うんだ、と自分では思う。

 まだ、しっかりじっくりとは眺めていなけれども。

 なのに、彼女がこんなに喜んでくれたのだ。

 すごく幸せそうである。

 この指輪が、メイを幸せにしたのだ。

 ひいては、カイトの考えで彼女を幸せに出来たのである。

 オレが。

 いまのメイの笑顔を作ったのだ。

 クッ!

 バンッと、身体の中がバーストした。

 この指輪騒動の直前まで燃えていた炎は、鎮火していなかったのだ。

 燃え続けていた炎に、油が降り注いだのである。

 彼女の笑顔と、それを取り巻くいろいろなことのせいで。

 クソッ!

 その衝動を、今度は止められなかった。

 1%未満といわれる理性の声は、彼には届かなかったのである。

『優しく』、という声だったのに。

 愛おしいという気持ちだけで出来た、火の生き物になる。

「あっ…!」

 いまの時間も、明日の朝のことも―― カイトは何も考えられなかった。


 ベッドの端から、白いケースが転がり落ちた。