はぁ。

 いつもの倍、仕事で疲れたような気がする。

 指輪のことは、彼女も知っているはずなのに、これから渡すとなると、やたら緊張してしまうのだ。

 自宅の玄関前で、一度深呼吸してドアを開ける。

 指輪は上着のポケットの中。

 あんまり触ると、カイトの手垢で汚しそうになるくらい白いので、ポケットに手を突っ込んだきり確認したりしなかった。

 慣れない形の存在を、カイトはしっかりと感じていた。

 ドアの向こうは。

「おかえりなさい!」

 深夜だったが、メイはやっぱり起きていた。

 彼女の笑顔が視界に入ってきただけで、ドキドキする。

 どうやって切り出したらいいか、分からなかった。

 カイトは、目の前で戸惑った。

 何も言わなくてもいい。

 黙ってでもいいから、とにかく渡せ!!

 自分に激しく叱咤を与えた。

 そうして、ポケットの中に手を突っ込もうとした時。

「ご飯、あたためるね」

 ボヤボヤしているうちに、パジャマ姿はダイニングに向かってしまったのだ。

 あ。

 カイトは悔やんだ。

 指輪を渡すどころか、抱きしめることさえすっかりおろそかにしてしまったのだ。

 ようやく、彼女に会えたというのに。

 何やってんだ。

 まるで、これから決死の覚悟で、プロポーズでもするかのような気分だった。

 今更、彼女が指輪を受け取るのを、拒否するはずもないのに。

 自分のペースに持ち込めないまま、彼はおとなしく餌付けされることとなった。

 彼女はやはりお茶を飲み、自分はご飯を食べる。