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 仕事で遅くなる。

 そんなのは、最初から分かっていることだったし、出がけにメイにも伝えてきた。

 さすがに何日か目になると、その言葉も予想がついているのか―― しかし、彼女の瞳から、完全に揺らぎを消してしまえたワケではなかった。

 だから、ぎゅっと抱きしめる。

 納期というラスボスとの戦いから、自分一人抜け出すワケにはいかなかったのだ。

 しかし、今日も少し抜け出さなければならなかった。

 宝石店は、深夜まで開いているワケじゃないのだ。

 支払いは昨日済ませていたので、とにかく受け取る。

 昨日の女店主が、ケースを開けて仕上がりを確認させようとしたが、その柔らかい空気に耐えきれず、宝石強盗のように奪い取ってきた。

 結婚式というものを、やたら意識している白いケースなのも、狂おしく落ち着かなかった。

 車に戻るなり、ダッシュボードの中に突っ込んだ。

 これから、まだ彼は仕事をしなければならなかったし、変に持ち歩いて落としたり、人に見られたりでもしたら大変である。

 忘れて帰らないためにも、ここが一番間違いなかった。

 帰ったら。

 これを、彼女に。


 職場に戻って仕事を続けたが―― どうにも、集中できなかった。