「その子は、仲良くしてくれた魚屋さんの男の子なんだけど、いつも、やったこともないゲームの裏技とか教えてくれたの。キャラクターの名前とか。どうして旅をしてるのかとか。ゲームで何か重大発見をしたら、まるで、自分が宝の山でも掘り当てたみたいに、すごく嬉しそうに」

 とりあえず。

 彼女が、近所の魚屋と懇意にしていたのは分かった。

 ただ、話に出てきた息子(?)が気にかかった。

 一体いくつくらいなのか。

 カイトが子供の頃から、家庭用ゲーム機はあるのだ。

 だから、メイの幼少時代の話にさかのぼっているとするなら、幼なじみというケースだってありえる。

 彼女は、その頃を思い出しているのか、懐かしそうであったかい表情になっていた。

 オレがいない時代の話。

 それを聞きたかったクセに、聞いてしまうと、どうして自分がそこにいなかったのかが悔しくてしょうがない。

 まるで、両親の結婚式の写真に、自分が写っていないとゴネる子供と同じだ。

 そして、気になるくせに聞けないのだ。

 その子とやらは、いまはいくつなのかと。

 どうせ、ガキだ。

 そう思っているにも関わらず、気になる。

「実は…」、などと続けられ、もう一段深い箱のフタが開くのを恐れいるのだ。

 大体、裏技でもストーリーでも、どんな隠れキャラでも、カイトの方がそんな子供よりよく知っている。

 もっと、いろいろ彼女に教えてやれるのだ。

 そんなことを、張り合ってもしょうがないのだが。

 カイトは、すっかり子供じみたスネに入ってしまった。

 オレの方が、と。

「オレの作ってるゲームは……」

 だから、彼はいま自分が携わっているゲームの話をし始めた。

 さっきの気分を払拭してしまうために。

 内容は、雑誌で発表されている程度のものだったのに。

 メイの目は、キラキラになって「それから?」「それで?」と聞くものだから、箸を止めたまま30分もしゃべってしまった。

 2時半過ぎという事実に気づいて、自分を罵倒する。


 また、失態日記に新たな1ページを加えてしまった。