「誰もまだ起きてないわよ。」



尚も葛藤する愁の後ろから、愁の心の内を察したのだろう優理香が声をかけた。



「母さんも達兄もまだ寝てる。だから、そんなとこにいないで家入れば?」



驚いているような、意外そうな顔をしている愁に、優理香はため息をつきながらもう一度告げた。


「あ…ああ、そうする。」


ぽかんとそう呟く愁を見て、満足したのか優理香はまた学校へ向けて歩き出した。



背を向ける直前の表情が、少し微笑んでいるようにも見えた。