「すみません。」

カツヤが頭を下げた。

「ナツミさんとは、実は今日別れ話をしていて・・・。そんな中、あの雷雨で。近くに自分の自宅があったので、とりあえずそこに避難していました。」

「その格好は・・・?」

「あまりに制服が濡れていたので、申し訳ないと思いつつボクの普段着に着替えてもらいました。」

「そう。」

お母さんは力無くため息をついた。

たぶん、お母さん自身も動揺してるんだと思う。

だって、知らない男の子の自宅で着替えして、帰ってきて。

しかもその男の子は我が子の元彼で、別れ話をしてきて。

怒るに怒れない空気が漂っていた。

これ以上詳しい話をし出したら、余計に複雑になりそう。

「カツヤは、わざわざそのことを言うために一緒に来てくれたのよ。」

「そう。」

お母さんはさっきから「そう」としか言わない。

なんだか嫌な空気。

「ご心配おかけして、本当にすみませんでした。」

カツヤはもう一度深く頭を下げた。

「わかりました。ナツミにまたゆっくりと話は聞きます。わざわざ送って下さってありがとう。」

お母さんは、カツヤとは目を合わせないまま会釈をした。

カツヤは少し不安そうな顔で私を見て、またお母さんに頭を下げた。

「ありがとね、カツヤ。もう大丈夫よ。」

とにかく、ややこしくなる前にカツヤはここから退散した方がよさそう。

私はカツヤに帰るよう促すべく、手をふった。