「そんなあり得ないこと想像もできないって。」

逃げた。

「想像して下さい。」

食い下がるカツヤ。

長い前髪の奧の切れ長の瞳が私を捕らえていた。

「え~。だから、あり得ないし。今はカツヤと付き合ってるんだから。」

「じゃ、タイスケさんがナツミさんのこと好きだったとしても、その気持ちには応えない?」

しつこいぞ。

カツヤ。

少しイライラする。

カツヤのしつこさと、

その答えにしっかりとした気持ちが持てない自分に。

カツヤを目の前にして、本心は言えないよね。

それは、あまりにひどい話。

それに、私の気持ちは、カツヤにもかなり振れてる。

カツヤと今別れようなんて気持ちがないことは確か。

「タイスケがもし、もしよ?絶対ないと思うけど、私のこと好きだなんてことがあったとして、カツヤとは別れる気はないから。もちろん断るわよ。」

カツヤから目をそらして、言った。

カツヤが長いため息をついた。

「よかった。」

ちらっと顔を上げると、カツヤは安堵の笑顔を浮かべて私を見つめていた。

うっ。

笑顔もきれい。

きっとこの笑顔にまいった女性は何人もいるんでしょうね。

私は、こうやって、付き合って、初めてその笑顔に気づかされたかもしれない。


結局その日はそのままカツヤと帰った。

さすがにデートする気分にはならなかったから、直帰。

タイスケのことも気にならないといえば嘘になるけど、電話もかけなかった。

あの後、どこへ行ったんだろ・・・?