いや、いいんだよそんな事は。

「拘泥してきたのはアンタでしょ」

……そうだけども! だけども、いいんだよ! そんな事より俺の足なんだよ!

「うるさいのぉ……」

うるさいってなんすか!? 俺にとってはかなり重大な問題ですよ!?

「簡単に説明するわ。アンタの足が吹っ飛んだのは夢だった訳だけど、現実のアンタの足にもダメージがあった。つまり夢の中で起こったことは現実にも影響を与えるの。『夢中』が使える人間ならなおのことね」

『夢中』ってのは前にも聞いたな。いったい何なんだ?

「人間が夢の中で『これは夢だ』と気付けたとき、夢の世界をある程度自由に構築できる、という話を聞いたことはないかの?」

つまり夢の中で何でも出来るってヤツか? 聞いたことあるな。夢を見たことがない俺としては、夢についての興味は尽きないところでな、昔いろいろと調べたことがあるんだよ。

「それを訓練などを積んで強化したものを、あたしたちは『夢中』と呼ぶの」

俺がそれを使えるってのか……? つまりドアを吹き飛ばしたのも、包帯やらがたくさん出てきたのも?

「そういう事ね」

……夢なんか全く見なかった男が、急に見た夢でスーパーマンかよ。

「……アンタには夢世界、あたしたちは『ヴェイン』と呼んでいるけど、そのヴェインとのアクセス手段が無いと、前に言ったわよね? でもそれは、正確にはちょっと違うの。アンタにもヴェインはある、でもそこに自分の記憶を干渉させる事が出来ないだけ。アンタの意識がヴェインに行っても、そこは本来記憶から成る世界だから、記憶の干渉がない夢なんて何も無いも同じって事。夢を見てないんじゃなくて、何にもないって夢を見てたのよ、簡単に言うとね。でも、アンタは最近になって形ある夢を見るようになった」

そうだ……あれは何故なんだ? あんたらの仕業なんだろ?

「これは最近になって確立させられた技術なんだけど、複数人のヴェインをリンクさせる方法ってのがあるの。あたしも詳しく知らないんだけどね。その技術を使ってアンタのヴェインにアンタ以外の記憶を干渉させ、アンタのヴェインを定義させると、アンタも晴れて夢を見られるってわけよ」
つまりは他人の夢の中だったって事か?

「ちょっと違うけど、まぁそれでもいいわ」