「まぁ無理は無いけどね。あたしだってそうだったから良く分かるわ」

良く分かる、ねぇ。
当の俺は全く分かって無いってのに。

「夢、見た事なんか無かったでしょ」

何故知ってる?
ああ、これは俺の夢だもんな。
俺の記憶から生まれた世界なんだから、登場人物であるあんたが知っているのは当然だ。

「……まぁ良いわ。じゃあこんな話はどう? 貴方の知らない情報。まぁ貴方の知らない情報ならさっきから随分話したと思うけど……。貴方が夢を見ない訳」

見ない訳?

「貴方と言うプログラムに起きた異常、蓄積されたバグ。それは貴方から夢世界へのアクセス手段を奪ったの。夢世界って言うのは誰の中にも在って、そこにアクセスする事で人間は夢を見るの。自分の持つ記憶を干渉させる事でその夢を定義させるのよ。だけど貴方はそれが出来ない。つまり……」

バクにいくら夢を喰われても何の影響も無いって事か。

「素晴らしいまでに物分かりが良いわね」

もう良い。
そのセリフもそろそろ飽きて来た。

「貴方はバクに干渉されない唯一の人間なのよ。貴方にしか出来ない仕事があるの」

まぁ百歩、いや万歩譲ってバクの事やあんた等の事、俺の事について信じるとしよう。
だが知った事じゃない。
俺と言う人間は平々凡々で意志薄弱、薄志弱行で附和雷同な人間だ。
優柔不断にも程がある。
無知蒙昧にも限度がある。

そんな俺に出来る様な仕事なら、誰だって出来るさ。
他を当たってくれ。