誰かが呼ぶ。

俺の名を。

「ユキ……」

うるさい……。

「ユキ……」

今何時だと思ってる……。
等と常套句の様な事を言ってみる。



「ユキ……」

まだ寝ていたいんだ……。
昨日寝たの何時だと思ってる……。

「ユキ……」

「だーーっ! うるさい! 静かにしろ!」

またもや常套句の様な事を言ってみる。

いや、叫んでみる。

「やっと起きた」

これまた常套句の様な言葉が返って来た。

うーむ……。

いや、常套句とは、ちょっと違うか……?

まぁ良い。

こう言う線引きは、個人差もあるだろうし。

ご想像にお任せってヤツだ。

とにかく、だ。

俺は起きたらしい。

だが、と俺は思う。

今自分が居る場所が、眠りに就いたはずのベッドの上ではなく、見知らぬ個室で見知らぬ女と一緒に居ると言う謎のシチュエーションのせいもあろうが、何よりも、この異常なまでの現実感の欠如。

本当にここは現実の世界なのだろうか?

「じゃあ聞くけど、現実の世界って何?」

唐突にそんな事を、しかも見知らぬ女に言われて驚かずに居られるだろうか、いや居られない。

反語を使ってしまうまでの驚きだ。