そんなマスターとあたしの
やり取りを見ていた
常連客の宮ちゃんは


「...ったく!!
　見てらんないわよ!!
　
　何なのよ!!」


まるで自分のことの様に
憤慨しながらマスターと
あたしの間に割って入ってくる


「ｺﾞﾒﾝﾅｻｲ...
　あたし...」


いくら小さな時からの
馴染みの店とはいえ
他のお客さんもいる場で
申し訳なかったと思い謝ると


「違うわよ!!

　ったく!!...
　冗談じゃないわよ!!
　こんな小娘､一体､どうやって
　あんな大金､返せるというの？」


「...ぇ？」


一瞬､驚きで固まるあたしに
マスターが慌てて説明する


「ゴメンな､乙羽ちゃん
　
　借金のこと
　大家さんから聞いちゃって...
　
　コイツなら何かイイ方法でも
　知ってるかと思ったけど
　とんだ役立たずで...」


「なぁ～に～？
　あたしのせい～？

　だぁ～かぁ～らぁ～

　合法じゃなきゃ
　いくらでも...」


「バカ言うな!

　そんなもん乙羽ちゃんに
　背負わせてみろ!
　俺はお前を一生､許さないからな!!」


怖い顔で宮ちゃんを一喝するマスター


「やだぁ～もぉ～　何ぃ～？
　ちょっともぉ～　怖い～～～!!
　
　ねぇ､ちょっと､見たぁ～
　あれは人を殺したことがある目ね

　あたし分かんのよ､そういうの!!」


ギャーギャーと騒ぐ宮ちゃんをよそに


「悪かったな...

　乙羽ちゃんに何の断りもなく
　勝手に人の耳に入れちゃって...」


「ぅぅん...

　心配してくれて
　ありがとう

　でも､大丈夫だから...
　マスターは心配しないで」


「心配しないでって
　何かあてでもあるのかい？」
　

「...」


あたしは小さく
首を横に振り黙ってうつむく


「そりゃ､そうよ
　あんな大金...

　こんな小娘にね､返すあてがあったら
　今頃､日本はみんな
　逆立ちして阿波踊りよ!!」



宮ちゃんは数年程前まで
東京でナイトクラブを
経営していたようで
そういう筋の人たちに割と
顔が利くらしい

それでどうにかならないかと
マスターが相談したが
兄がお金を借りた所は
警察も手を焼くほどの
性質の悪さで有名らしい...


「だぁから～
　あたしに任せなさい～

　素人がヘタに首突っ込むと
　本当､痛い目に遭うんだから」


「オイ､その話はもう終わりだ」


マスターが再び
宮ちゃんを睨むと
宮ちゃんはタコのように
口を尖らせた