「雨宮さん……」

ぼそりと無表情の美星は呟いた。

顔は空を向いたまま、うっかりすると聞き落としそうな澄んだ小さな声が、俺の鼓膜を揺らす。

「ん、どした?」


風が吹いただけで倒れそうな華奢な細い体。

色白で、どこか儚げなその容姿は白百合の花を想像させる。


美星はゆっくりと口を開いた。

「わたし……ここにいていいのかな……?」


抑揚をつけずに淡々と語るので感情を読み取るのは難しいが、俺には分かる。


美星は泣いてる。


ただ泣き方が分からないだけ。


「わたし……こんなだし……一緒にいると、雨宮さんだってつ、辛い……でしょう……」


ヒトは、自分と極端に違うものを嫌う。

勿論それはSS病患者にも至極当然のように当てはまり、今日の日本においても無表情で感情が分からないSS病の発病者は、何もしなくとも迫害を受けることが多い。


美星も例外ではなく、学校でいじめにあい、あろうことか実の母親にまで虐待を受けていた。



世界は無力な者にどこまでも厳しい―――



今俺から離れたら美星は独りぼっちだ。

帰る場所なんてとうの昔に失われているんだから。

精神的にも……物理的にも。