「……」

「なぁ。美星(みそら)、そろそろその突っ慳貪な態度なんとかなんねぇか?すげー気になるんだが」

「……」

「わーったよ、降参。俺が悪かった。すまん」

「……ハーゲンダッツのバニラ……おっきいの」

「お前なぁ……ドーンと太っても俺は知らないからな」

「……」



天宮 美星。高2。

こいつは病気だ。


笑えない病気。


スマイルレス症候群
(Smileless Syndrome)

通称SS病。


笑えない程深刻という意味ではなくて、ただ単に笑顔になれない病気だ。


泣ける。怒れる。

けれど笑えない。


ごく最近、現代病の一種として現れたこの奇病は、日本の若者の荒廃した心を映すかのように若年層を中心に広がりつつある。

俺の隣で満天の星空を見上げるこいつもその一人。


笑顔を忘れるってことは、同時に幸福観念をも霞ませるらしい。

笑えないこいつは自然と他の感情、喜怒哀楽全てに鈍くなっていた。


喜べるから哀しみが分かる。

楽しいから怒りたくなるときもある。


だから


喜びが分からなければ哀しみは理解できない。

泣けない。


楽しさが分からなければ怒りたくなる理由が分からない。

怒れない。


俺の隣に座る少女は、まるで鋼鉄の仮面を被っているかのようだった。