僕と萌が出会ったのは春休みの大学の図書館だった。
萌はその日、職員としてこの大学にやって来た。
僕は図書館のアルバイトだった。

「初めまして。九条萌です。」
カチコチに固まった顔を少し緩めて挨拶したその声に僕はビックリした。

声が、凄く綺麗だったからだ。

それは鈴を転がしたようなという表現では軽いほど澄んでいて、とても柔らかい印象だった。

萌はその日から「声が綺麗な職員さん」として、大学内の噂になった。


当の本人は噂には興味ないのか、まだ耳に入ってないのか、まだまだ慣れない仕事を淡々とこなしていった。

空き時間にはよくバイト達と話してくれた。


そんなある日、朝一番のバイトに入っていた僕はいつも通りバイト専用の入口から入ろうとした。
ところが、鍵が掛かっていて入れない。向かいの職員専用の事務室を見ると、ドアも開いているし、電気も点いている。
珍しく、職員さんが開け忘れたのか?と思い、急いで警備室に鍵を取りに行ったか、警備員は既に職員さんが鍵を持って行ったという。
首を傾げながら図書館まで戻った僕を萌が待っていた。
「ごめんなさい!鍵でしょう?私、開けるの忘れちゃってて…さっき開けたから。本当にゴメンネ!」
そう言うと、萌は事務室に消えていった。