「おはよう、直弥」


朝、リビングへ行くと

珍しく母が先に起きていた。



「おはよう」


食卓に並べられた

トーストとサラダとスープ。



「お母さんが作ったの?」


「そーよっ!」

得意げに胸を張って、

私にドレッシングを手渡した。



いつもは私が作る朝ごはん。



「直弥、あのね?」




向かい側に座った母が、

かしこまった様子で

顔を強張らせる。



つられて私の顔も強張る。


だいたい予想はしてた

この展開。


「お母さんね、籍を抜こうかと思うの。」



籍を・・・・抜く。


離婚。




「直弥の意見も聞きたくて。」


一方的な大人の事情。

都合よく振り回される子供。



「私は・・・」


仲直りして欲しい。


もうとっくに諦めてしまっていたと

自分でも思っていた切なる願いが

口から出そうになる。



「お母さんのしたいようにすれば

いいと思うよ」



これが私の精一杯の反抗。


嫌味に聞こえているだろうか。


母は、ゆっくりと瞼をおろして、

涙をこぼした。



「ごめんね、直弥。いつもいつも・・・」








泣くんだ。



そうやって、いつも泣くんだ。




私の事なんか、これっぽっちも

考えてないくせに。


いつも、私に謝って泣くんだ。





ずるいよ。


泣きたいのは私だって同じなのに・・・・





「樺山!」


門のふちの方で仁王立ちする

可愛らしい顔立ちの筋肉バカ。



今日は、相手をする気力もない。



「お、おい!樺山!」


無視して通り過ぎた私を

追いかけてきた須藤。



なんて欝陶しい人なんだろう。



「なんなんですか」

「おはよう、は基本だろ?」

「・・・おはようございます。」


満足そうに白い歯を見せて笑う須藤が、

私の腕を掴んだ。